開発者スペシャルインタビュー 長期保存VD-R”ARLEDIA”誕生
三菱化学メディアからDVD-Rの新しいフラグシップシリーズ「ARLEDIA」が発売される。一眼レフデジタルカメラユーザーを中心に、大切な想い出を写した写真や自分の作品など、失いたくないデータを安心して保存したいというユーザーの声に応えるために誕生したのが本製品だ。そこには、ディスクの長期保存性能を向上させるための三菱化学メディアの独自技術と、記録ディスクの新たな市場を創ろうとするエンジニアの強い思いが込められていた。(文:Phile-web編集部)
長期保存ディスクという市場創造へ
長期保存DVD-R“ARLEDIA”の開発にリーダシップを執ったのは、同社の佐藤晋氏である。佐藤氏は先のストーリーで紹介したマスタリング用DVD-R“GREEN TUNE”シリーズのメイン開発者の一人でもある。今回はARLEDIAシリーズ誕生の背景と、そこに活かされた三菱化学メディアの技術を佐藤氏に詳しく訊ねた。
三菱化学メディア(株)セールスサポート本部テクノロジーサービス部マネージャー 佐藤晋氏
三菱化学メディア(株)品質保証部マネージャー 佐藤晋氏今回ご紹介する長期保存DVD-R“ARLEDIA”シリーズをはじめ、三菱化学メディアのフラグシップDVD商品の開発を担当するキーパーソン
ARLEDIAの商品化の礎は4〜5年前の話に遡る。当時はまだ4倍速記録のDVD-Rが市場の中心であり、DVD-Rディスクの主な用途はPCのヘビーユーザーによるデータのバックアップだった。一般的には「ディスクの寿命」に関する意識はまだ薄かった頃であったが、一方ではDVDレコーダーの普及拡大が始まり、家電用としてDVDディスクも一般層に普及を拡大してきた時期でもあった。三菱化学メディアでは「近い将来にユーザーの間でディスクの寿命が大きな関心事となるだろう」という先見を捕らえ、まだ手探りの中ながらも“ARLDEIA”の基幹技術である金銀反射膜の開発をスタートさせた。

実は三菱化学メディアでは、長期保存の要である耐腐食性を高めた金銀反射膜技術を使用したDVD-Rを、既に約一年半ほど前からアメリカでは業務用として商品化している。アメリカでは多くの企業で書類のデータ保存が義務付けられており、保存用途のDVD展開が合理的に進められていた。アメリカでの実績を受けて、同じ商品を日本でも展開すべきという意見が同社の中でも起こったが、佐藤氏をはじめとするARLEDIAの開発者たちは、アメリカとの市場環境の違いを重視し、慎重に日本市場の調査を行いながら、金銀反射膜技術を生かした製品アイデアを模索していった。

話は変わるが、国内において三菱化学メディアはハードコートを採用した12cmDVDを販売していない希有なメーカーである。8cmDVDやBlu-ray Discではハードコートを採用しており技術をもっていない訳ではない。その答えが長期保存ディスク“ARLEDIA”の登場なのだと言う。

ハードコート製品の検討段階で調査を重ねた三菱化学メディアはあるユーザーのニーズとハードコートの機能のすれ違いに気づいた。当時、ハードコート処理を施したディスクを好んで活用するユーザーとしてデジタル一眼レフカメラユーザーが浮かび上がってきた。DVDディスクに保存するデータはただのデータではなく、大切な想い出や作品であり、無くしてしまったら取り返しがつかない。だから、保存するDVDディスクにも安心できる品質をもったディスクを探した結果、ハードコート採用品を選んでいた。しかし、キズや指紋などの外傷の耐性を高めるにはハードコートは最適だが、できる限り想い出や作品を長く残したいと願うニーズからDVDディスクの経年変化に不安を感じる声があることが見えてきた。

三菱化学メディアは、いずれのメーカーも打ち出せていなかった“長期保存DVD-R”というカテゴリーを、「金銀反射膜」や「DYN-AZO色素」をはじめとする独自技術や、こだわりのブラックケースなど様々な資産を投入し、立ち上げることを決断したのだ。

「国内の一般的なユーザーからは“できるだけ安いディスクが欲しい”という声も多くありましたが、その一方でどうしても大事なデータがあるので“保存性能の高いディスクが欲しい”という声も少なからず存在しました。私たちとしてはそのようなユーザーに評価してもらえるディスクをつくり、長期保存性能という新しい付加価値を持ったDVDを世に送り出したいと考えました」と、佐藤氏は“長期保存DVD-R”ARLEDIAが産声を上げた時を振り返る。
優れた長期保存性能を実現する「金銀反射膜」という技術
ディスクの長期保存性能を高めるためには幾つかの方法があると佐藤氏は説明する。

「一つにはディスクに使われている材料を変えるという方法ですが、これには開発期間やコスト面での負荷が大きくなり過ぎてしまい、実現性が低くなるだろうと考えました。さらに現行製品に手を加えるというアプローチだけでは、ユーザーが目で見てわかるような“長期保存DVD-R”の斬新な魅力を打ち出せないだろうと判断しました。それならばCD-Rの時代からディスクの反射膜の材料として使われてきた“金”を使えば、記録性能が高く、その上盤面が金色ということで、ユーザーが目で見てディスクの特徴がわかる商品になるだろうと考えました」
DVD-R“ARLEDIA”のディスク
DVD-R“ARLEDIA”のディスク
写真左は長期保存DVD-R“ARLEDIA”のディスク。反射膜に使われている純金をレーベル面に透過させ、見た目にも鮮やかなゴールドレーベルを実現している。写真右は“ARLEDIA”の商品パッケージ。漆黒の外装が高級感を醸し出している。(写真はクリックで拡大します) ※三菱ブランドのARLEDIAは販売終了しました。
三菱化学メディアのDVD-Rディスクには、独自の「DYN-AZO(ダイン・アゾ)」と呼ばれる色素が使われている。経年変化(耐光性)に強く、記録特性も高いという特徴を持つこの色素は、三菱化学メディアの全てのDVD-R製品に用いられている。既に一般的な長期保存のニーズを十分にカバーしていると言える三菱化学メディアのDVD-Rだが、なぜARLEDIAのように、さらに長期保存性能を高めたディスクが必要とされたのだろうか。佐藤氏の説明はこうだ。

「当社の調査からも大切なデータは絶対に失いたくないというユーザーがいることがわかり、そのような方たちにより安心して使ってもらえるディスクを提供する必要があると考えたことからALREDIAの開発はスタートしました。三菱化学メディアのDVD-Rは既に高い保存性能を持っていますが、保険に保険をかけるような位置づけでARLEDIAを選んでもらいたいと考えています」
“ARLEDIA”に採用された金銀反射膜と、従来品の銀反射膜の構造の違いを示す図版
“ARLEDIA”に採用された金銀反射膜と、従来品の銀反射膜の構造の違いを示す図版。左の金銀反射膜では、標準的なDVD-Rで採用されている銀(Ag)反射膜に、腐食に強い金(Au)反射膜を組み合わせて経年変化を抑制している(写真はクリックで拡大します)
ARLEDIAは、用途としては通常の8倍速記録に対応するDVD-Rと同じだが、そこには同社が新たに開発し、現在特許を出願している「金銀反射膜」技術が採用されたことにより、長期保存性能において、理論値で従来の約2倍近い寿命が実現されているという。

かつてCD-Rが商品化された当初は、色素と反応しないという特性から反射膜に「金」が使われていた。その後、記録速度の高速化とディスクのコストを下げる工夫として、三菱化学メディアが反射膜に「銀」を採用し、各ディスクメーカーもそれに続いた。ところが一方で銀と色素は腐食反応を起こしやすいという課題もあった。そこで三菱化学メディアでは「DYN-AZO」という腐食に強い色素を開発し、銀反射膜を使った低コストなディスクの商品化に成功したのだ。

また、ディスクの寿命に影響を及ぼす要素として、「反射膜と接着剤の関係」に着目し、そこにより大きな腐食を発生させる要因があることを突き止めた。そこで同社は「反射膜と接着剤の間」に金をスパッタする独自技術を生み出した。この技術を元に誕生したのが、ARLEDIAに採用された「金銀反射膜」であった。
互換性能や高速記録性能にも富む「金銀反射膜」
三菱化学メディアのもう一つのフラグシップDVD-Rである“GREEN TUNE”シリーズには金反射膜のみが使われているが、なぜARLEDIAには敢えて新しく開発された「金銀反射膜」が採用されたのだろうか。その理由を佐藤氏に聞いてみた。
GREEN TUNE
マスタリング用DVD-R“GREEN TUNE”シリーズでは音質の向上を図るため金反射膜のみが使われている (写真はクリックで拡大します)
※GREEN TUNE DVD-Rは販売終了しております。
「反射膜に金を使った場合と銀を使った場合では、材料により熱伝導率が異なるため、記録の状態が変化します。“GREEN TUNE”シリーズは“音”にこだわるマスタリング用途に最適化されたディスクですが、一方でARLEDIAの場合はより広範な一般ユーザーの方々にデータの長期保存用ディスクとして使ってもらいたいと考えてつくった製品です。そのため、従来の様々なドライブとの互換性が保てるよう、銀を応用した“金銀反射膜”を選択しました」

当然ながらGREEN TUNEシリーズでもマスタリング用として主に使われているドライブとの互換性は確保されており、汎用ドライブで使用することも可能だが、ARLEDIAの場合は、より多くのユーザーが通常の8倍速記録対応のDVD-Rと同じ使い心地で扱えるよう、互換性の部分で一層の利便性向上が図られているということだ。

「金銀反射膜」という新しい画期的な材料を得た後、新しい製造ラインを構築する際にも一つの苦労があったと佐藤氏は振り返る。

「金と銀とで“2回”反射膜のスパッタが必要になることが、ARLEDIAと他の製品との最大の違いです。一般的に反射膜をスパッタする際にはディスクに熱がかかり、ディスクの反りを変化させます。ARLEDIAの場合は、通常のディスクよりも多くの熱量がかかるため、それを前提に置きながら、最終的に平らなディスクをつくるため基盤の反り形状を検討して、新しい製造条件をつくる必要がありました」

またARLEDIAは8倍速記録対応のDVD-Rだが、使用時にはより安定した記録特性が得られるよう、ハード側のピックアップに負荷をかけぬように盤面の平滑性が高められているという。その品質管理は他のディスクよりも一段レベルが上げられていると佐藤氏は語る。
「温度88度・湿度80%」環境下での環境加速耐久性試験の結果
「温度88度・湿度80%」環境下での環境加速耐久性試験の結果。従来品と比べてARLEDIAが約2倍の寿命性能を実現していることがわかる(写真はクリックで拡大します)
それぞれの独自技術を”ARLEDIA”という商品にまとめ込む過程
そのほかにも、「金銀反射膜」をはじめとする三菱化学メディアの独自技術を長期保存DVD-R“ARLEDIA”という商品にまとめ込んでいく段階でも、いくつもの工夫が取り入れられている。

三菱化学メディアの場合は金銀反射膜だけでなく、経年変化に強い「DYN-AZO色素」の技術を既に持っていたことも大きな強みとなった。またGREEN TUNEシリーズにも採用された独自のハードコートを採用することによって、長期保存性能に加え、外的損傷にも強いディスク構造を実現している。

ARLEDIAは反射膜に金を用いるため、どうしてもディスク自体のコストが高くならざるを得なくなる。そこで商品としての魅力をより強くユーザーに感じてもらえるよう、透過性の低いブラックケースも採用された。実はこのケースの色にも佐藤氏のこだわりがあったようだ。

「漆黒のケースを用いることで、ディスクをケースに収納した状態で太陽光や蛍光灯からの光の照射による経年劣化を防ぐことができます。ケースはいくつもの候補となる製品の中から、これまで保存性に実績のある製品を探して選び抜いたものを採用しています。また色については透過性の低さで黒と白が候補に挙げられましたが、ディスクの金色が映える色として、ユーザーの方々に少しでも強く所有する喜びを感じていただけるよう黒にしました」
ARLEDIA専用のブラックケースに収納されたディスク
ARLEDIA専用のブラックケースに収納されたディスク
写真左はARLEDIA専用のブラックケースに収納されたディスク。透過性が低く、太陽光や蛍光灯など光の照射からディスクを守る役割を果たしている。写真右はARLEDIAのディスク記録面。独自のハードコートにより、外傷からの優れた耐性も実現している(写真はクリックで拡大します)
長期保存性能を高めたディスクという価値を、ユーザーにわかりやすく伝えるためには、通常製品との見た目の違いも大事であると佐藤氏は考えた。その上、「金は腐食しにくい」という、一般に浸透している金のイメージをARLEDIAに与えたいという狙いもあったようだ。そのほかにもARLDEDIAのケースを開けると、そこに封入されているインデックスカードにはエンジニアの佐藤氏によるコメントがプリントされている。随所にちりばめられたこだわりの数々から「ユーザーに、この商品に惚れ込んで使ってもらいたい」という佐藤氏らの強い願いが感じられる。

今回発売されるARLEDIAの技術は、今後三菱化学メディアのラインナップにどのようなかたちで活かされ、発展していく可能性があるのだろうか。少し気の早い質問を佐藤氏に投げかけてみた。

「今回は一眼レフデジタルカメラのユーザーのニーズに応えるためにARLEDIAを商品化しましたが、まずは“長期保存ディスク”というカテゴリを市場に創って、一人でも多くのユーザーにその魅力を実感してもらうことが大事だと考えています。やがて市場を確立できれば、今度はCPRMに対応させて録画用ディスクに発展させていくことは難しくないと思います」

またBlu-rayディスクへの採用については「Blu-rayの場合はディスクの構造やベースとなる技術が異なりますが、ARLEDIAが起点となって“長期保存ディスク”という価値がBlu-rayディスクにも浸透して行けば良いと考えています」と佐藤氏は語る。
大切なデータを長く保持するために
長期保存DVD-R“ARLEDIA”がいよいよ商品化される運びとなったわけだが、ユーザーとしてはただディスクの性能に頼るだけでなく、大切なデータを長持ちさせるために気を付けたい事柄もある。ディスクのデータを長持ちさせるための最適な保存方法について、佐藤氏に訊ねてみた。
松本氏、滝澤氏
「まずは保存環境に気を配ってもらいたいと思います。ディスクは写真のフイルムと同じ有機物を使った化学製品ですので、保存環境の温度や遮光条件はきちんと管理するべきだと考えます。またディスクへのキズ・ホコリなどを防ぐためにも、できる限りプラスチックケースに収納して保管して欲しいと思います」と語る佐藤氏。ディスクに保存したデータを長く保存するためには、良いディスクを選ぶことに加えて、ユーザー一人一人の気配りが大切である。

今回は長期保存DVD-R“ARLEDIA”誕生の背景を追ってきたわけだが、三菱化学メディアのユニークなものづくりの発想力と、それを実現へと導く高い技術力を改めて実感させられた。例えばこれまでのストーリーの中でも紹介してきた“点字CD-R”やオーディオ用CD-R“Phono-R”、録画用DVD-Rの“Cine-R”など、ユーザーにとって「こういうものが欲しかった」「こういうものがあったら楽しいだろう」と感じられる商品を具現化できる力が三菱化学メディアにはある。記録ディスクの様々な特徴や用途をユーザーの視点に立って想定し、多彩な独自技術を活かした製品を世に送り出していけることは、ディスク専業メーカーである三菱化学メディアの強みに他ならないのだろう。
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