開発者スペシャルインタビュー 高度なレーベル面印刷技術により誕生したバリアフリーディスク “点字付きCD-R”を生んだ発想力と技術力
三菱化学メディアは2007年秋に“点字付きCD-R”「SR80SB10」を発売した。今回は本製品の開発担当者である松本氏、滝澤氏の両名を訪ね、商品のコンセプトやそこに投入されている三菱化学メディアの技術力の全貌を明らかにする。(文:Phile-web編集部)
一般的なプリンタブルディスクのデザインを再構築するところから点字CD-Rの発想が生まれた
はじめにお二人のご経歴と、今回ご紹介させていただく点字付きCD-Rディスク「SR80SB10」(以下点字CD-R)の開発をご担当されるまでの経緯をお聞かせ下さい。
三菱化学メディア(株)ブランド営業本部 営業推進部 部長 松本一美氏
三菱化学メディア(株)ブランド営業本部 営業推進部 部長 松本一美氏同社の商品企画担当者として、点字CD-Rのコンセプトを起案したキーパーソン
三菱化学メディア(株)CEOオフィス 滝澤俊文氏
三菱化学メディア(株)CEOオフィス 滝澤俊文氏三菱化学メディアの光ディスクの色素媒体開発を担当。点字CD-Rについては“点字部”の印刷技術開発をリードしてきた人物
松本氏 1992年に入社後、営業を経て、企画・マーケティングセクションの立ち上げに参加しました。点字CD-Rとの関わりは、2005年の春頃にアイデアが生まれて、数ヶ月後に本格的にプロジェクトが立ち上がりました。本商品については私ともう一名の担当でコンセプトワークや商品のデザイン、基本的なマーケティングの要素を決めて行きながら、商品化に必要な技術を検討していく段階から滝澤にプロジェクトへの参加を依頼しました。
滝澤氏 1994年に光記録メディアの開発に移り、CD-Rを担当することになり、間もなくしてCD-Rの開発拠点を国内からシンガポールに移すことになり、私も現地工場の立ち上げに参加することになりました。1999年頃シンガポール製CD-Rを、台湾のODM先に技術移管・転換するにあたり、現地の新しい工場を一から立ち上げる事業に携わりました。

2004年頃からは記録型DVDも含めた色素技術の外販サポートや、「LightScribe」など特殊なレーベル技術を開発するグループに加わりましたが、ちょうどその頃に松本ら商品企画のスタッフから提案された点字CD-Rの研究開発に関わることになりました。
三菱化学メディアが点字CD-Rを開発することになった背景をご紹介下さい。
追記型CD-R(700MB)点字付きCD-R「SR80SB10」
追記型CD-R(700MB)
点字付きCD-R「SR80SB10」 ¥OPEN
(写真はクリックで拡大します)
>>点字付きCD-R「SR80SB10」の製品紹介ページ
>>点字付きCD-R「SR80SB10」の製品特集ページ
松本氏 点字CD-Rのプロジェクトが立ち上がった当時、一般的なインクジェットプリンタ対応ディスクのデザインについてふと周囲を見渡してみたところ、CDもDVDも同じ直径12cmという規格に沿った大きさで、しかも盤面が真っ白なため、パッケージを外してしまうとディスク自体の見分けが付きにくいものになっているように感じました。それまでお客様のニーズを追い求めて製品を改良してきたつもりが、一部のお客様にとっては結果として使いづらいディスクになりつつあるのではという疑問を抱いたのです。三菱化学メディア/バーベイタムグループには“可搬型のモバイル記録媒体をつくり、遍くユーザーの方々に供給していく”というミッションがありますが、現状のディスク製品は目の見えるお客様にさえ見分けが付きにくいほどなのに、ましてや視覚障害者の方にとっては明らかに利便性が良くないであろうと考えました。そこで「点字の付いたディスクをつくってみよう」というアイデアが生まれました。

最初はインクメーカー様の協力をいただいて、手刷りで1枚の点字CD-Rのサンプルをつくってみました。その後、こういった商品のニーズや潜在ユーザーの有無について色々と調べてみたところ、視覚障害者向けに様々な種類の機器を開発・販売されている企業に出会い、そちらの社長に直接お目にかかって、サンプルをテストしていただきました。社長に感想をおうかがいしたところ、「こういうものがあったら便利ですね」という反応をいただき、視覚障害者の方々が現在ディスク製品を使われている状況などについてもお話をうかがいながら、「こういうものがあれば明らかに視覚障害者の方にとって利便性が上がる」ということを確信して、商品化のためのプロジェクトの立ち上げを決断しました。
点字CD-Rの商品化が決まったあと、まずはどんなことから検討をはじめられましたか。
松本氏 最初にプロジェクトの方向性を固める必要があると考えました。そのため、製造上、技術上の制約を敢えて設けることにしました。一つは点字CD-Rを通常のディスクと同じ価格で販売することでした。実はディスクに点字を設けるためにはいくつかの方法が考えられますが、そのために新たな装置や製造ラインを導入してしまうと、通常のディスクと同じ価格のものがつくれなくなります。ですので、点字CD-Rの製造には、既存ディスクの製造ラインを使うことを一つめの制約として設けました。もう一つは、三菱化学メディアでつくり上げた点字CD-Rの技術をクローズなものにせず、オープンにして提供できるようにすることでした。ただし、そのためには適正な品質で上市されることが必須ですので、製品に関わる技術的な特許の取得など、必要な要素についても検討を進めました。
滝澤氏 それまで当社ではディスクの商品化については、技術のことは技術者、商品やパッケージのデザインは商品企画担当という具合に、それぞれが仕事の領域を分けて進めてきましたが、この点字CD-Rの開発では、企画の担当と研究所のスタッフが同じプロジェクトのもと、実用性のある商品のデザインを考えるところから一緒にスタートしたということが、これまでにない新たな試みでした。
点字CD-Rの開発を進めるにあたって、ベースとなった三菱化学メディアの技術や商品はありましたか。
松本氏 当社で発売しましたCD-R“Phono-Rシリーズ”や、DVD-R“Cine-Rシリーズ”で培ってきた実績を活かすことができました。“Phono-R”はディスクのレーベル面に普通のインクを積層して、実物のレコード盤に近い質感やイメージを持たせた商品です。やはり相当細かな印刷を実現するための高度な技術が求められましたが、この技術を厚さ「100ミクロン」のインクを積層して点字部分を印刷する点字CD-Rの製造に応用することができました。点字印刷部分の「高さ」を決めるにあたっては、すべての光ディスクの記録面側に設けられている「スタックリブ」の高さとの兼ね合いが課題となりました。
レーベル面にインクを積層させてアナログレコードの質感とイメージを再現したオーディオ用CD-R「Phono-R」シリーズ。
レーベル面にインクを積層させてアナログレコードの質感とイメージを再現したオーディオ用CD-R「Phono-R」シリーズ。(写真はクリックで拡大します)
>>Phono-Rシリーズの製品紹介ページ
こちらはフィルム映写機のリールをレーベルデザインのモチーフにした。録画用DVD-Rの「Cine-R(キネアール)」シリーズ。
こちらはフィルム映写機のリールをレーベルデザインのモチーフにした。録画用DVD-Rの「Cine-R(キネアール)」シリーズ。(写真はクリックで拡大します))
>>録画用DVD-R「VHR12YCG5」製品紹介ページ
スタックリブとはどのようなものですか。
滝澤氏 スタックリブとは、ディスクを重ね置きした際に記録面にキズを付けたり、上下のディスクがくっついてしまわないように設けられている厚さ200ミクロンほどの“下駄の歯”みたいなものですが、今現在の視覚障害者の方々はこちらを触ってディスクの裏表を識別されているようです。
「厚さ100ミクロン」のインクで点字部を表現 − その技術的なポイントとは?
点字部分を印刷する際にはどのような技術的な課題を克服してきましたか。
滝澤氏 最初は何も分からない状態からスタートしましたので、どうやったら点字として識別がしやすくなるよう、ディスクに厚くインクを塗布できるのかというところから、様々なトライ&エラーを重ねました。最初は点字に印刷に使うスクリーンや、インクの粘度、乳剤の厚さなど、およそ100通りもの条件を並べて、様々な組み合わせを検討しながら条件を固めていきました。そして出来上がったサンプルを視覚障害者の方に触っていただくという作業を繰り返してきました。

一般的にUV硬化樹脂で点字をつくる場合、JIS規格では300ミクロン以上の高さを持たせることが規定されています。点字CD-RがJIS規格を採用しなかった理由は、一つにはディスクのスタックリブの高さが200ミクロン程度に固定されているため、それよりも高く点字のインクを盛ってしまうと、記録面に接触してしまうおそれがありました。そのため、点字部分はできるだけ低くしながら、それでいて触って分かりやすいものにするため、100ミクロンという高さを設定しました。通常のインク厚の10倍以上もあり、既存の印刷方法では難しいことから、高さを得るための印刷方法を考え、印刷機やインクの選定、重ね塗りの回数などをシミュレーションしながら、現場でインクの調合も行いつつ検討を重ねてきました。

通常CDのレーベルプリントというものは、細かい線などがきれいに出せて、ディスクへの影響を少なくするため「いかに薄く塗るか」を突き詰めていくものなのですが、当時私が時期を同じくして開発していたサーマルプリンタブル技術の方で、インクを厚く塗るための技術を研究していたこともあり、同様の技術が活用できたということもありました。
市販されている点字CD-R「SR80SB10」
点字CD-Rの開発用として、スタックリング嵩上げ部のテスト、および外周嵩上げ部影響テスト用につくられたディスクのサンプル
写真左は市販されている点字CD-R「SR80SB10」。記録面側の内周に設けられたスタックリングは、ディスクを重ね置きした際の記録面への影響を防ぐために設けられたものだ。写真右は点字CD-Rの開発用として、スタックリング嵩上げ部のテスト、および外周嵩上げ部影響テスト用につくられたディスクのサンプル。(写真はクリックで拡大します)
インクを厚く塗るためにはどんなテストが行われましたか。
滝澤氏 最初はレーベル面の下地の色やインクの高さなども色々と変えて、エラーの測定やライフ特性の検証を行いました。あとは視覚障害者の方々が便利に使えるように、どんな字体や文字の大きさが良いのかなどを検討していきました。あとはディスクの外周にもインクの縁取りがあった方が、ディスクを重ねたときに周辺のドットやデータ面を傷つける心配が少なくなるだろうということも考えました。周辺に重ね塗りによる印刷を行うことで記録面のエラーにつながることのないよう、様々な条件による測定を重ねてきました。

さらに重ね塗りについては効率良く100ミクロンの厚みで塗るために、最適な方法も工夫してきました。工場のスタッフからも「難しくて大変だ」と言われましたが、何とか無理を通して合わせてもらいました。通常のディスクであればコンマ1ミリぐらいの精度で位置を合わせれば良いのですが、点字の印刷ですので、それを超える精度で合わせるのに苦労しました。
現場では相当反発の声もあったのではないでしょうか。
滝澤氏 ところが台湾やシンガポールの各工場のエンジニアたちは積極的にチャレンジしてくれました。頼んだ私たちの方が驚くほどに、難しいインク塗りの位置合わせにも成果を出してもらえました。
松本氏 ただ、一方でコストとの兼ね合いもありましたので、私たちも機会を見つけては生産現場に足を運んで、工場のスタッフと交渉しながら、生産コストを抑えてもらえるようお願いしてきました。
滝澤氏 実際にはかなり厚く塗ることになるため、ディスクの重量バランスを崩さないようにデザインも検討しました。さらにはドライブとの互換性を見たり、ディスクどうしが点字のインクの経年変化でくっつかないようライフテストも行いました。
気温50度・湿度90%の環境下に7日間ディスクを晒した加速試験後にハイパワーで記録を行った。ベース(保護層)を塗布する前
塗布した後
ラジアルノイズによるエラーのテスト結果。気温50度・湿度90%の環境下に7日間ディスクを晒した加速試験後にハイパワーで記録を行った。ベース(保護層)を塗布する前(左図)は点字印刷部でラジアルノイズが上昇していることがよくわかる。塗布した後(右図)はラジアルノイズが全体的に減少し、点字印刷部が浮き出ることもない。一般的にCD-R/RWは記録層とレーベル層が近いため、レーベルインクの分布影響を受けやすい。試験結果からもレーベルデザインで使われるインクの収縮による記録層への影響が推察される。三菱化学メディアの点字CD-Rでは、デザインレイアウトやベース塗布によってラジアルノイズによるエラーの低減を実現している。(図はクリックで拡大します)
それから例えばこちらはディスクのラジアルノイズの数値を濃淡にして表したものですが、ライフテストの結果、盤面に盛った「CD-R」などのインクの文字が現れていることから、印刷がデータ面に影響を与えているということがわかります。CD-Rのレーベル面は、記録層である色素層と反射層の上に4〜5ミクロン程度の非常に薄い保護コートが設けられているだけなので、レーベル面に厚手の印刷をしてしまうと、このようなエラーが発生する元になってしまいます。
ラジアルノイズの原因について、もう少し詳しく聞かせていただけますか。
滝澤氏 ラジアルノイズはレーベル面上に部分的な印刷を施すと、インクが硬化し収縮して、全体に応力を与えてしまうことにより生じるノイズです。通常はそれほどシュリンクする性質のインクは使っていないのですが、オーブンに入れるなどかなり過酷な高温環境下での加速耐久試験を行うと、やはり縮むことがあります。このような多少の応力の影響により、記録面の溝などに影響を与えトラッキングが少しずれることで、ラジアルノイズが発生することになります。
松本氏 通常のディスクであっても、例えば抜きのデザインなどを採り入れた場合はインクの収縮による影響は、加速耐久テストをしていく段階で出てくる場合があります。
青色の下地については、なぜこの色を選ばれたのでしょうか。
松本氏 この青の下地には2つの意味があります。一つは指の滑りを良くして点字を識別しやすくするためです。もう一つは点字印刷による、先ほどのラジアルノイズによる悪影響を防ぐための保護層の役割です。インク自体に滑りやすい特殊なインクを使っています。

点字CD-Rを使用される方の使い方については、とにかく幾通りも検証しました。例えば全盲の方以外にも極度に視力の弱い方、あるいは視野の狭い方など様々なケースがありますので、そういった方々にはあまりギラギラとした盤面はかえって見にくくなります。弱視の方にとってはブルーに白文字の方が逆の場合よりも見やすいようです。あとは中途失明の方もいらっしゃいますので、点字をご存じないがために読めない、という場合は知っている文字はなぞって分かるということもあります。そこで様々なサンプルを作成して、色々なケースの障害者の方々にテストしていただきました。例えば盤面の文字はどのフォントが最適なのかであるとか、私たちとしてはできるだけ文字を小さくして情報量をたくさん入れたかったのですが、実際はなるべく文字を大きく、触って分かりやすいものにした方が好評でした。こうして様々なやりとりを重ねて、最終的に商品をつくっていきました。
点字CD-Rのデザインサンプル
点字CD-Rのデザインサンプル
点字CD-Rのデザインサンプル
点字CD-Rのデザインサンプル。下地の色やフォントの種類・サイズなど、使いやすいデザインが繰り返し検証された。中央の写真は最終デザイン初期のサンプル。(写真はクリックで拡大します)
点字部と外周部に設けられた縁取りのインクは同じ厚みと高さなのでしょうか。
滝澤氏 同じ印刷方法を用いていますので、ほぼ同じ高さになります。それぞれ100ミクロン以上は設けるようにしています。さらに量産化の段階では、工場で同じものを連続してつくり続けなければならないということで、この商品の命となるインクの高さをどうコントロールすれば良いのかが決め手になります。外周の高さとか、ここの文字とか、ドットの高さとか、それぞれを厳密に測定して、最適な条件を決定します。あとは工場の方で、工場の製造機器が安定的に運転できるか、抜き取り検査をして品質保証テストを行います。点字CD-Rではレーベル印刷面のテストに従来以上に注力しました。これらのデータを元に、厳密な品質管理を行い、工場のスタッフに守らせることが、技術的な最終段階の役目であり、立ち上げの最終段階での仕事になります。
松本氏 点字CD-Rの場合、「点」が一つないだけでも文字の意味が変わってしまいますので、品質管理はいっそう厳密なものになります。例えば目で見れば「C」という文字などはある程度欠けていても読めるけれども、点字の場合はインクの高さが足りなく、触れても認識できないようであれば、引いては識別できなくなってしまいますので、インクの高さや、点の小ささなどには細心の注意を払いました。
根幹となるアイデアは国内の研究所で生まれるとして、その技術を練り上げて商品を開発する際には三菱化学メディアのコンセプトが100%注入されている海外のマザー工場が活躍するというスタイルが確立されていますね。
滝澤氏 そこにはやはり私たち国内のスタッフがそれぞれの現地スタッフの方々と一緒に工場を立ち上げてきた経験が活かされていると思います。点字CD-Rの開発にしても、数多くのテストをこなしてきましたが、現地工場のスタッフの方々には、旧知の間柄の方も大勢おりますので、商品を立ち上げる際にも短かい開発期間の中で密度の濃いテストを一緒に行うことができました。
松本氏 各自が例えば機械のクセなど、工場のことを隅から隅まで分かっておりますので。
先達て「GreenTune DVD-R」の開発ストーリーを取材させてもらった際にも感じたことなのですが、三菱化学メディアでは、こうした新しい試みによる特殊な製品をつくる際にも、特別の生産ラインを別途に立ち上げることなく、既存商品の生産技術を組み合わせて、レベルの高い製品を完成させることができることが大きな強みなのではないでしょうか。
松本氏 おっしゃる通り、当社では光ディスクの事業形態にいち早くODM(Original Design Manufacturing)の手法を採り入れ、当初からの基本コンセプトを守りながら、あるいはそれをさらに改良しながら高品位な製品を実現していることが大きな強みだと考えています。いわゆるODMには色々な形態がありますが、当社では海外の生産工場についてもラインのデザインから私たち本社のスタッフがすべて構築し管理しています。もちろん基本材料も100%当社の材料を使っている、本来のスタイルでのODMです。加えて品質管理も全数検査を行っていますので、点字CD-Rだけではなく、私たちがODMで生産している製品を含む、すべての商品が同じ考え方でつくられています。
そういった意味では、三菱化学メディアの製品は「MADE IN 国内 OR 海外」という基準ではなく、「MADE BY 三菱化学メディア」という価値でとらえるべき商品なのですね。
点字CD-Rの“使いやすさ”を多くの人々に体感してもらいたい
実際に今この点字CD-Rはどのような場所で採用されているのでしょうか。実際の導入事例などご紹介下さい。
松本氏 昨年9月に発売されたばかりの商品ですので、実際にどのような方々にお使いいただいているかについては、まだ詳細は調べておりません。私たちの当初のプランには、一般の方々が買えるような環境を一刻も早くつくり出したいという目標がありましたが、現在は多くの家電量販店でお取り扱いをいただいていることは大きな成果だと考えています。
松本氏、滝澤氏
使用事例という意味合いでは、視覚障害者の方、あるいはそのサポーターの方がお店でご購入されて、一般の方がCD-Rを使用しているのと同じような使い方で、お楽しみいただいているケースが最も多いようです。販売数量についても、当初の企画にほぼ沿った形で推移しています。

あとは採用実績として、三菱化学グループの企業である(有)化成フロンティアサービスでは障害者雇用を主眼に置いた業務を実践していますが、そこで勤務されている視覚障害者の方に点字CD-Rを開発段階から使っていただいて、使い勝手のリサーチなどにもご協力をいただいています。彼ら自身が所属するサポート団体やお知り合いの視覚障害者の方々にも点字CD-Rをご紹介いただいたことで、同社が社屋を構える九州の方では、点字CD-Rの認知が広がり始めています。
点字CD-Rをより便利に活用できるハード機器には、例えばどんな製品がありますか。
松本氏 ハードウェアではシナノケンシ株式会社様が“プレクストーク”というデジタル録音機を発売されています。こちらの製品では記録媒体の一つとしてCD-Rを使うことができます。視覚障害者の方が録音図書CDの再生に使ったり、メモ代わりのレコーダーとしてお使いになっているようです。録音図書というものは、ボランティアの方が書籍を音読した録音をCDに収録した視覚障害者の方のための書籍です。東京では点字図書館さん等で貸し出しを行っています。ハードウェアではこの“プレクストーク”が最も活用されている製品の一つですが、ハードとディスクの互換を相互に確認するなどの取り組みを行っています。あとは最近のパソコンには「音声読み上げ機能」が付いている製品も数多くありますので、様々なコンテンツをCD-Rに焼く場合にご活用いただけるものと思います。
当初点字CD-Rを拝見したときには、三菱化学メディアのCSR(Corporate Social Responsibility)として、ビジネスとは切り分たかたちで開発された商品と考えていましたが、実際にお話をうかがってみると、当初からビジネスとして進めていくことを前提にスタートした商品だったのですね。
松本氏 その通りです。点字CD-Rを開発してみて、これは間違いなく使いやすい製品であるということが分かりましたし、発売後にも色々な励ましのお声をいただきました。今では点字CD-Rを多くの方々に長く使っていただけるよう、継続して販売していくことが私たちの責任であると考えていますし、そのためには事業として成立させなければなりません。売り続けることによって、あるいは大きな意味合いでCSR的な貢献につながっているのかもしれません。
点字CD-Rから生まれた技術が次世代ディスクの開発につながっていく
今後点字付きディスクはどんな方向に進化していくのでしょうか。あるいはそこから派生した技術をどんな分野に応用したいと考えていらっしゃいますか。
松本氏、滝澤氏
松本氏 視覚障害者の方のニーズが最も強かったCD-Rを商品化できましたので、点字ということであればDVDや次世代光ディスクが考えられますね。

厚生労働省の調査結果によれば、視覚障害者の方がニュースを得る情報媒体として最も活用されているのがテレビなのだそうです。テレビのニュースは耳で聞くことができるうえ、最近ではドラマなどでも副音声で出演者の動作を解説する音声サポートを設けているコンテンツも増えてきています。また、ボランティア団体の中では映画にもサポート用の副音声を製作して、DVDに収録するといった試みをされているボランティア団体もいらっしゃるようです。今まではそういった映像コンテンツをビデオテープに入れるケースが多いそうですが、今後はVHSからDVDへの置き換えも進んでくるものと思います。点字付きのDVDのニーズが高まってくるのはそう遠くはないと感じています。
最後に点字CD-Rをお使いの方々に向けたメッセージがありましたらお聞かせいただけますか。
松本氏 レーベル面には油性ペンなどで書き込むこともできますので、ぜひ多くの方々に普通のCD-Rとして使ってみていただきたいと思います。
滝澤氏 スペックについても当社独自開発のSONIC-AZO色素を使って、最高48倍速の高速記録でも安定したデータ記録ができます。やはり品質の高いAZO色素を使うことによって、耐光性や耐熱性が高く、普通のディスクと同じように視覚障害者の方が使うディスクも長きに渡ってお使いいただける、一番良いものでご提供するのがベストの形であると思います。コストとのバランスを図りながらギリギリまでこだわったディスクに仕上がったと自負しています。こうした私たちの取り組みが、例えばディスクが人から人に渡っていくことで、視覚障害者の方をはじめ、一般の方たちにも、広く伝わって、多くの方が「こういうものを使ってみたいな」と感じていただければ、私たちとしても何か新しいことをやっていく意味が出てくるのではないかと思います。
ありがとうございました。
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