三菱化学メディアの次世代技術探訪紀 最新BDディスクが採用する 独自技術を支えるエンジニアたち レポート/山之内 正
今回は三菱化学メディアの岡山県・水島工場を訪ね、同社から発売されたBDディスク新製品を中心に、その特徴と開発・生産技術における三菱化学メディアの独自性について、エンジニアの各氏へ評論家の山之内正氏がインタビューを試みた。(文:Phile-web編集部)
幅広いユーザーニーズをカバーする三菱化学メディアの最新BDディスクが登場
録画機の世代交代が進んで販売台数が急速に伸びていることから、録画用メディアの需要も大幅に増えることが予想される。新しいレコーダーがサポートした4倍速記録に対応するBD-Rディスクや、大半の機種が対応した2層ディスクの需要増が期待されるほか、DVDと同様にプリンタブルディスクの人気も高まりそうだ。12月に登場する三菱化学メディアの新ラインナップはそれらの用途をすべてカバーしており、幅広い選択肢を提供する。

今回は三菱化学メディアのBDディスクの開発に関わったエンジニアたちを同社水島工場に訪ね、その製品に活かされている三菱化学メディアの独自技術と製品の特徴について、詳細をインタビューした。
三菱化学グループの技術を結集させ、完成された「記録メディア専用」のハードコート技術
BDはROMを含むすべてのディスクの信号面にハードコート処理が施されている。記録面が表面から近い部分にあり、0.1mmの厚さを有するカバー層が比較的柔らかい素材で構成されているため、ハードコート処理は必須なのである。そのおかげでベアディスクでも指紋や傷が付きにくく、安定した記録・再生ができるメリットが生まれるわけだが、BDのハードコートは一朝一夕にできあがったわけではない。開発のスタート時点の経緯について栗和田氏はこう語ってくれた。
三菱化学メディア(株)次世代商品戦略センター 1部 水島グループ マネージャー 栗和田健氏
三菱化学メディア(株)次世代商品戦略センター 1部 水島グループ マネージャー 栗和田健氏金属工学専攻。MO/CD/磁気テープ/ハードディスクと記録メディアの開発に携わり、金属・無機・有機材料の加工技術に精通。現在はBDのカバー層、ハードコート材料の開発を担当。
「カートリッジなしのベアディスクでは、ユーザーが直接手で直接触れることがありますので、まず指紋が付かないことが必要であり、開発者にとってそれが最初の目標になります。三菱化学グループの中でタッチパネル用のハードコート技術を開発している部署がありますので、メディア用のハードコート材料を開発するにあたっては、まずその部署のスタッフに声をかけました」(栗和田氏)

タッチパネルは指で直接操作しても誤動作しないことが前提のデバイスなので、確かに指紋対策が不可欠だ。だが、その技術をそのままBDに流用できるほど簡単ではなかった。

「BDの方がずっと条件が厳しいんです。いろいろな素材を繰り返し試しながら、BDに求められる特性に近付けていきました。指紋の成分には個人差があるのですが、社内のスタッフを含む様々な人たちの指紋をサンプルとして集めることによって、結果として材料ごとの耐指紋性能の差を正確に見出すことができました」(栗和田氏)

指紋の付きにくさ(耐指紋性能)は人工指紋をディスク表面に付着させて読み書きさせる試験で評価を行うのだが、三菱化学メディアのハードコートは指紋が付いた場合の凝集性が高く、油成分が液滴状になるサイズが非常に小さいのだという。そのサイズが小さいほどエラーレートの発生が少なくなるわけだが、サイズによる実際の違いは測定データに明確に表れていた。
規格で規定された人工指紋液を、規格よりもさらに濃く付着させてシビアな評価を行った際の記録データ
規格で規定された人工指紋液を、規格よりもさらに濃く付着させてシビアな評価を行った際の記録データ。人工指紋液は測定の再現性、比較の公平さを保つために用いているが、実際の指紋でも同様の傾向が得られている。指紋の付着状態を変え、4通りのパターンを想定してエラーレートを比較した。 三菱化学メディアのディスクは指紋の付着量が非常に少なく、エラーレートの増加も殆どないことがわかる。指紋付着後に記録して、その後指紋を拭き取った際のテスト結果でも、三菱化学メディアのディスクではエラー増加がほとんどない。このような圧倒的な耐指紋性は、独自開発のハードコート材の表面性能によるものである(写真は拡大可
スチールウールテスト
ハードコートにより傷のつきにくさが大幅に改善される。耐指紋性能(指紋の付きにくさ)も当然のことながら、たとえ指紋が付着した場合でも傷がつきにくいため、安心して拭き取ることができる。繰り返し拭き取っても、対指紋性能がほとんど低下しないのも特徴だ(写真は拡大可
今回はその効果を確認するため、インタビューの現場で実際に油性ペンを使った実験も行ってみたが、三菱化学メディアのBDはインクを強くはじくため、そもそも書き込むこと自体が難しく、僅かに付着したインクもティッシュペーパーなどですぐに拭き取ることができる。一方、他社のディスクでははっきりと文字が読めるうえ、力を入れても完全に拭き取るのが難しかった。三菱化学メディアのBDはこの性能が長期間持続するところに差が出るという。
ハードコート性能の実力を検証
今回は三菱化学メディアのBDディスクのハードコートがどれだけヨゴレに強いのかを確認するため、実際に油性ペンを使ってディスクの記録面に書き込みを行い、後にティッシュペーパーを使って拭き取る実験を行ってみた。実験では三菱化学メディアのハードコート技術の特長をより明らかにするため、他社製BDディスクとの比較検証も試みた。
三菱化学メディアのBD-R
油性ペンで記録面に書き込んでみる。インクが弾かれてしまい、書き込むことも難しい。
油性ペンで記録面に書き込んでみる。インクが弾かれてしまい、書き込むことも難しい。
他社製のBD-R
油性ペンで記録面に書き込んでみる。三菱化学メディアのディスクに比べて容易に書き込める。
油性ペンで記録面に書き込んでみる。三菱化学メディアのディスクに比べて容易に書き込める。
次
次
ティッシュペーパーで記録面への書き込みを拭き取っていく。
ティッシュペーパーで記録面への書き込みを拭き取っていく。
ティッシュペーパーで記録面への書き込みを拭き取っていく。
ティッシュペーパーで記録面への書き込みを拭き取っていく。
次
次
特に力を入れなくても、書き込みを完全に拭き取ることができる。
特に力を入れなくても、書き込みを完全に拭き取ることができる。
力を込めても、油性ペンのインクを完全に拭き取ることは難しかった。
力を込めても、油性ペンのインクを完全に拭き取ることは難しかった。
高速記録タイプのBDディスクは、実験室レベルですでに12倍速記録を実現ずみ
最新のBDはドライブとディスクの両方が高速記録に対応し、ダビング速度の向上などを実現している。メディア側にはどんな課題があるのか、田邊氏に聞いてみよう。
三菱化学メディア(株)次世代商品戦略センター 1部 水島グループ 田邊英昭氏
三菱化学メディア(株)次世代商品戦略センター 1部 水島グループ 田邊英昭氏水島工場における光メディア事業の立ち上げに関わり、製造プロセスの開発を担当。現在はBDディスクの2層化技術の取りまとめと製造、およびレコーダーメーカーとのコミュニケーションも専門に行う。
三菱化学メディア(株)次世代商品戦略センター 1部 水島グループ マネージャー阿河雅史氏
三菱化学メディア(株)次世代商品戦略センター 1部 水島グループ マネージャー阿河雅史氏同社光メディアの2層化プロセスのスペシャリスト。DVDの頃より技術の開発に関わり、現在はBDの2層ディスクに注力。
「BDはDVDに比べてディスク回転速度がほぼ1.3倍なので、BDの4倍速はDVDでは約6倍速に相当する速度になります。データ転送レートでみた場合、約13倍の差になるんです。BDでは数字は小さいですが、実際にはDVDの最高速に迫る領域に、現時点でもすでに達しているということですね。もうひとつの難しさは記録密度が高いことに関係していますが、ハードウェア側の読み取りの困難さをメディア側ではレーザー光入射側の読み取り面(カバー層/ハードコート層表面)の平滑性を確保することによりサポートしなければなりません。高速化の要求自体が以前よりも厳しいレベルにきているといえます」(田邊氏)

その厳しい要求に対し、三菱化学メディアのBDは6倍速相当まで問題なく動作するディスクを完成させているというから驚く。実際のところ、8倍速を越えると検査機の性能が追い付かないという事情があるため、そこから先の数字は検証が難しいのだというが、実験室レベルでは12倍速記録での特性を確認しているそうだ。パワーマージンの広さは驚異的なレベルといってよいだろう。
1倍速(1X)、4倍速(4X)、6倍速(6X)で単層BD-R媒体に記録した場合の、ジッターの記録パワー(Pw)依存性データ
1倍速(1X)、4倍速(4X)、6倍速(6X)で単層BD-R媒体に記録した場合の、ジッターの記録パワー(Pw)依存性データ。「上限値」と記された値以下であれば問題なく再生が可能だ。また、各線速ごとに最適記録パワー(Popt)が異なるため、横軸は各線速ごとにPwをPoptで規格化した値としている。低倍速ではPoptを中心に±20%のパワーマージンがあり、4倍速/6倍速でもすでに±15%程度のパワーマージンを確保している(写真は拡大可
BD-RDL記録パワーマージン(L1層)
ジッター特性を最も確保しにくい2層BD-R媒体のL1層(レーザー光入射側手前の記録層)においても、すでに、6倍速まで±20%程度のパワーマージンを確保している。なお、ジッターの上限値は、エラー訂正不能になり再生不可能となる限界値である(写真は拡大可
2層BD-R、L1層における4倍速記録パワーマージン
データは各社2層BD-Rにおける、L1層への4倍速記録パワーマージンの比較。三菱化学メディアは市販2倍速媒体を、他社は市販4倍速媒体を用いたデータを測定している(写真は拡大可
「2P法」の技術を完成させ、安定した記録特性を持つ2層BDディスクが生まれた
BD-Rの1層ディスクは4倍速の時代に入っているが、三菱化学メディアは2層ディスクについては2倍速ディスクで4倍速の記録特性を実現している。そのうえでキーとなる技術について2層技術の専門である阿河氏の説明を聞いた。

「三菱化学メディアでは“2P法”という技術で2層ディスクを生産しています。L1層の溝を転写で作り(転写層)、中間層を介してL0層(記録層)と貼り合わせる構造です。その中間層の構成に大きな特徴があって、弊社ではスピンコート法と透明スタンパを用いたUV硬化法を採用しています。これはDVDの2層ディスクとは異なる製法ですが、BDの場合はこちらの方が均一で安定した層を作ることができます」(阿河氏)

“2P法”は1層(L0層)の上に2層め(L1層)を積み上げていくディスクの製法であり、三菱化学メディアはDVD-R DLにおいてすでに技術を確立している。BDではその製法の一部をBDに合わせて最適化し、中間層の膜厚コントロールを高精度に制御することに成功した。DVDでは50ミクロンに対して±2ミクロンの精度を確保しているのに対し、BDでは25ミクロン±2ミクロンの精度に向上させ、実際には±1ミクロン相当で膜厚を管理しているという。
BDディスク(片面1層)の構造
BDディスク(片面2層)の構造
片面2層タイプのBDディスクでは「L0」と「L1」の2つの記録層を中間層を介して貼り合わせる構造が採用されている。三菱化学メディア独自の「2P法」による片面2層ディスクの詳しい製造工程については前回のレポートを参照して欲しい。
1ミクロンという数字は以前なら測定誤差の範囲であり、ちょっと信じられないぐらいの精度なのだが、ハードコート層もそのオーダーで塗布されているというから驚く。この厳密な膜厚管理によって平滑性を高め、それによって2層ディスクにおいても高速化を実現することができる。

三菱化学メディアが他社に先行して高速化できるもうひとつの理由は、記録膜にMABL(Metal ABlative Layer)という金属窒化物を採用していることにある。金属窒化物は小信号を高密度に記録する性能が金属よりも優れており、安定して均一な粒子が形成されるという特性を有している。様々な素材について熟知している三菱化学グループのノウハウがここでも活きているのである。
インクジェット対応のBDディスクはバックコート層によりバランスを確保
最新のBDディスク
最新のBDディスクは全モデルがインクジェットプリンターによる盤面印刷に対応している(写真は拡大可
最後に、最近のBDユーザーの間で急速にニーズが高まりつつあるプリンタブルディスクについて、三菱化学メディアの取り組みを栗和田氏に尋ねてみた。

「スクリーン印刷自体は特に難しいことはありませんが、BD特有の問題としてディスクの“反り”が起こらないようにバランスさせることが少し難しいですね。具体的にはバックコート層を設けてバランスを取るように工夫しています」(栗和田氏)

BDは保護層が0.1mmと薄いため、ディスクの反りにはDVDやCD以上に気を遣う必要がある。プリンタブル仕様にするためにラベル面に特殊な印刷を施すと、ディスクの平滑性に対して微妙な影響を与えかねない。バックコート層はその影響を打ち消す役割を担っているわけだ。その組成や厚さには多くのノウハウが蓄積されているに違いない。
「2P法」の技術を完成させ、安定した記録特性を持つ2層BDディスクが生まれた
DVDに比べて記録密度が高いBDは、膜厚の精度や平滑性など、あらゆる点で高い要求を満たす必要があることが今回の取材でよく理解できた。いまBDの録画機についてはハードウェアの進化が非常に早いため、新しいメディアの開発にかけられる時間はDVDの頃に比べてずっと短く、エンジニアたちにとってもハードな状況であることも、今回のインタビューを通じて、なるほどそうかと納得させられた。また、指紋からディスクを守るハードコート技術の効果についても、メーカーの技術力や取り組みの内容よってここまで大きな差が生まれることは初めて実感することができた。

今回の取材で、普段なかなか聞けそうもないエピソードにも触れることができたことは、筆者にとっても大きな収穫であった。三菱化学メディアの水島工場は新技術の開発拠点として機能しているので、新製品を生み出す過程での苦労など、臨場感のある話をうかがうことができた。課題の克服に向かって地道な試行錯誤を重ね、着実な改良を重ねながら、良質なBDディスクの商品化にこぎ着けた、三菱化学メディアのエンジニアたちの努力に対して敬意を表したい。
三菱化学メディアの最新BDディスク
三菱化学メディアの最新録画用・データ用BDディスクのラインナップ。録画用BD-Rについては、高速記録が可能な25GBの片面単層4倍速BD-Rと、50GBの容量を持つ2倍速対応の片面2層BD-R DLが加わった。全製品がインクジェットプリンター対応となっている点も大きな特徴だ。(写真は拡大可
>>三菱化学メディアホームページのBD製品情報

録画用 BD-R

(1〜4倍速対応・追記型) VBR130YP1(単品)
VBR130YP5(5枚パック)

録画用片面2層 BD-R

(1〜2倍速対応・追記型) VBR260NP1(単品)

録画用 BD-R

(1〜2倍速対応・追記型) VBR130NP5(5枚パック)
VBR130NP10(10枚パック))

録画用 BD-RE

(1〜2倍速対応・書換型)
VBE130NP5(5枚パック)

データ用 BD-R

(1〜4倍速対応・追記型)
DBR25YP1(単品)

データ用片面2層 BD-R

(1〜2倍速対応・追記型)
DBR50NP1(単品))

データ用 BD-R

(1〜2倍速対応・追記型)
DBR25NP5(5枚パック)
山之内 正
レポート
山之内 正 Tadashi Yamanouchi
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。近著に『図解インタ−ネットで変わる音楽産業』(アスキー刊/2000年)がある。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。現在も市民オーケストラ「八雲オーケストラ」に所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。音楽之友社刊の『グランドオペラ』にも執筆するなど、趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。
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