三菱化学メディアの次世代技術探訪紀 BDディスクの開発最前線 岡山・水島工場を訪ねる レポート/山之内 正
今回は三菱化学メディアの記録メディア製品における開発・生産の拠点となる岡山県・水島工場を訪ねた。同社の先端技術が集結した工場で、最新のBD-R製品が造られていく工程を最前線を評論家の山之内正氏がレポートする。(文:Phile-web編集部)
三菱化学メディアの次世代ディスク技術が集結する最先端基地
三菱の化学部門を担う三菱化学グループのなかで、三菱化学メディアは記録メディアの開発と生産を行う専門企業である。代表的な製品はDVDをはじめとする光ディスク群だが、光磁気ディスク(MO)の分野でも業界をリードしてきた重要なブランドとして知られている。記録メディアは様々な材料・化学技術と切り離せない製品だけに、三菱化学という強力なグループ企業がバックグラウンドに存在することは大きな強みと言っていいだろう。

その三菱化学メディアの記録メディアの開発・生産拠点が、岡山県の三菱化学水島工場内に存在する。瀬戸内海に面した広大な三菱グループの敷地の一角を占める同工場は、倉敷市にほど近く、温暖な気候と良好な環境にめぐまれている。
三菱化学グループの工場施設が集う水島コンビナートに位置する三菱化学メディアの工場
三菱化学グループの工場施設が集う水島コンビナートに位置する三菱化学メディアの工場。BDディスクを初めとする最新次世代商品の開発と量産が同時に展開される拠点として機能している(写真は拡大可
1990年代から今日までMOの開発・生産拠点として機能してきた水島工場の記録メディア部門は、現在は三菱化学メディアのBDを開発・生産する本拠地としても業界から熱い注目を集めている。BDの開発と量産の両拠点を1カ所に集中させている例は国内・海外を通じてそれほど多くないのだが、水島はその貴重な例として記憶にとどめておきたい場所だ。

同工場では現在、無機材料を使用するBD-R、BD-REのディスクが実際に生産されており、国内だけでなく、海外の市場にもここから製品を送り届けている。12月に発売される4倍速のBD-Rや2倍速のBD-R DLもこちらで生産がすでにスタートしており、まもなく出荷が始まる予定だという。

今回は同工場のBD生産ラインの一部を実際に見学することができた。量産設備に加えて、材料や製法を変えていろいろな研究ができるようなラインも所有しており、必要に応じて試験的な生産にも対応する体制を整えていることがわかる。まさに次世代光ディスクの最先端を行くメディア工場なのである。
BD製造ラインの最前線を直撃した
BDの製造工程は1層ディスクと2層ディスクで工程の中身が異なるが、三菱化学メディアの水島工場では基本的に1層と2層それぞれの生産ラインを並行して稼働させ、共通する生産ラインも含めて効率的に構成されている。工場内はクリーンルーム環境を維持しているので、私たち取材チームは防塵服にすっぽり身を包んで生産ラインを見学した。

1層ディスクと2層ディスクで共通する大きな流れとしては、原盤の情報を転写して基板を成型したあと、記録層・カバー層をそれぞれ形成した後、ハードコートを施し、検査を経て完成に至るという5つの工程に分けることができる。それぞれについて写真を見ながら内容を紹介していこう。
1.基板の成形
成型機と呼ばれる最初の装置では、CDの基板用素材としてもおなじみのポリカーボネートを溶かして金型に流し込み、急冷してディスク基板を作る作業を行う。その基板上にスタンパと呼ばれる原盤の情報を転写するのだが、その際の温度は約350℃とかなりの高温である。

原盤情報はナノメートルの精密さで基板上に写し取られる。また、冷却しながら転写する工程では数十トンに及ぶ圧力が原盤に加えられるという。数字からはもっと大げさな装置を想像してしまうが、目の前で行われている作業はロボットが整然と作業を進め、機械の動作音も予想以上に静かなことに驚かされた。
水島工場で稼働するBD-Rの基板成形機
水島工場で稼働するBD-Rの基板成形機(写真は拡大可
基板の原料となるポリカーボネートを熱して金型に流し込む
基板の原料となるポリカーボネートを熱して金型に流し込む(写真は拡大可
基板を数十トンで締めつけ、原盤の情報をナノオーダーで転写する
基板を数十トンで締めつけ、原盤の情報をナノオーダーで転写する(写真は拡大可
冷却スペースにずらりと並ぶBD-Rの基板
冷却スペースにずらりと並ぶBD-Rの基板(写真は拡大可
2.記録層の形成(スパッタリング)
基板は成膜機に送り込まれ、基板上に反射膜や記録膜を形成するスパッタリング工程に進む。成膜機は直径数メートルの円形の装置の外周部に小さなチャンバー(ブロック)が複数並んでおり、形成する膜の種類によってそれぞれ異なる原料や製法を用いた工程が配置されている。
基板上に記録膜と、レーザーの光を反射させるための反射膜をを形成する成膜機
基板上に記録膜と、レーザーの光を反射させるための反射膜をを形成する成膜機(写真は拡大可
成膜機の外周には小さなチャンバーが複数設けられており、つくられる製品の種類に応じて該当するブロックが稼働する仕組みとなっている
成膜機の外周には小さなチャンバーが複数設けられており、つくられる製品の種類に応じて該当するブロックが稼働する仕組みとなっている(写真は拡大可
成形機とは異なり、成膜機の中で行われている作業は外からはごく一部しか見ることができないが、それには理由がある。記録層や反射層の種類や数は生産上のノウハウに相当し、いわゆる企業秘密に属する部分も少なくない。真空中のスパッタリング作業など、実際に行われている工程を想像しながら装置の周囲をぐるっと回ってみた。

この成膜機は、ブロックを変更することで追記型のBD-Rを製造したり、書換え型のBD-REを製造するという具合に、様々な種類のディスクを柔軟に作り分けることができるように設計されている。どんなブロックを用いるかはディスクの種類によって異なり、記録層や反射層の微妙な組成などもコントロールすることができるわけだ。一部のブロックでは縦位置で自転しているディスクを見ることができた。各層の厚さはナノメートルオーダーで精密に管理されているという。
自転式の成膜機でディスクに材料を塗布していく
自転式の成膜機でディスクに材料を塗布していく(写真は拡大可
写真手前が成膜機にかけられる前の基板。写真奥が成膜機の工程を通過してきたディスク
写真手前が成膜機にかけられる前の基板。写真奥が成膜機の工程を通過してきたディスク(写真は拡大可
ここで2層ディスクの工程ものぞいてみよう。2層ディスクは記録層と反射層をそれぞれ2つ形成しなければならないので、1層ディスクに比べると工程数は増えるのだが、装置は意外にコンパクトで、整然とした精密な流れが印象的だ。
2層ディスクの貼り合わせを行う機械
2層ディスクの貼り合わせを行う機械(写真は拡大可
1層目と2層目の間に設ける中間層の製法にはきめ細かいノウハウが凝縮されており、DVD-Rの2層ディスクとも異なる独自のスピンコーティング技術が導入されている。スピンコーティングは薄膜を形成する塗布技術の一つで、回転する基板の上に原料を滴下し、遠心力によって膜を形成する手法だ。膜厚は回転速度や原料の粘性などで大きく変化するため、均質な膜を高精度に形成させるためには様々なノウハウが要求される。三菱化学メディアのBD-R DLディスクの場合は、約25μmの層を紫外線硬化樹脂で形成している。

樹脂スタンパ上に中間層を形成したのち、1層目(L0層)の記録層に貼り合わせてからスタンパを剥離させ、その上にスパッタリングによって2層目(L1層)の記録層を形成する。なお1層ディスク、2層ディスクともに記録膜の素材として三菱化学メディア独自の金属窒化物を使用している。こちらの素材については金属に比べて化学的に安定しており、記録パワーのマージンが広く、保存性が高いことが特徴だ。
3.カバー層の形成
反射膜や記録膜を形成したディスクは、記録面を保護するカバー層を形成する工程に進む。カバー層の厚さはBDの規格で決められている通り0.1mm(100μm)だが、実際には90μm強の厚みで形成し、その上に次の工程で形成されるわずか数μmのハードコート層と併せて100μmになる。カバー層の形成にもスピンコーティング法が用いられており、膜厚と平滑性が厳密にコントロールされている。

高速で回転するディスク上に原料が滴下され、カバー層の膜が形成されるのはほんの一瞬のことなので、なぜそこまで高精度に厚みがコントロールできるか、不思議なほどだが、そこにも多くのノウハウが活かされているということだ。
カバーコートの塗布工程。スピンコート方式でカバー層を塗布していく。高速回転するディスク上に原料を滴下した後(写真左)、一瞬の間にスピンコーティングによりカバー層が形成される
三菱化学メディアの独自技術によりナノレベルの平滑性を実現している
カバーコートの塗布工程。スピンコート方式でカバー層を塗布していく。高速回転するディスク上に原料を滴下した後(写真左)、一瞬の間にスピンコーティングによりカバー層が形成される(写真右)。三菱化学メディアの独自技術によりナノレベルの平滑性を実現している(写真は拡大可
4.ハードコート
カバー層の上に形成するハードコート層は、三菱化学メディア独自の技術がふんだんに盛り込まれている部分だ。その内容は次回のレポートで詳しく紹介するが、同社のBDは特に指紋や汚れの付きにくさで群を抜いており、強靱な特性を実現している。ハードコート層もカバー層と同様にスピンコーティングで形成するのだが、特に2倍速BD-R DLと4倍速BD-Rには1/100μmという超高精度の厚み制御ができる最新のスピンコーティング技術を採用している。
5.検査
最後は物理特性、電気特性の全数検査を経て、ラベルの印刷工程など最終段階に進む。BD-REについてはこの段階で初期化の作業が待っているが、ここまでくれば私たちが見慣れたおなじみのパッケージ製品の完成は近い。

日々進化が続くBDメディアの分野で最先端に位置し、同時に安定した生産を継続していくためには、開発拠点と量産拠点が隣接していることが理想である。三菱化学メディアの水島工場は、その両拠点を同じ場所にまとめていることが大きな強みになっていることを実感した。品質管理が徹底したクリーンな環境で作られたBDディスクが、この工場から全世界に向けて送り届けられるのである。

次回はこの水島工場でBD製品の開発に携わるキーパーソン諸氏へのインタビューから、同社の最新BDディスク製品に活かされている独自技術についてご紹介しよう。
図解でおさらい!<BDディスク 製造プロセスの流れ>(図はクリックで拡大します)
<BDディスク 製造プロセスの流れ>
山之内 正
レポート
山之内 正 Tadashi Yamanouchi
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。近著に『図解インタ−ネットで変わる音楽産業』(アスキー刊/2000年)がある。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。現在も市民オーケストラ「八雲オーケストラ」に所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。音楽之友社刊の『グランドオペラ』にも執筆するなど、趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。
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