プロの創造力に応えるマスタリング用メディア、GREEN TUNE開発秘話
三菱化学メディアからDVD-Rのフラッグシップ“GREEN TUNE”が発売された。プロの製作現場で活躍する、マスタリングエンジニアたちの厳しい要求にすべて応えることによって誕生した、高音質&高耐久性ディスクの魅力を、開発に携わった佐藤氏、江橋氏のお二人に聞く。(文:Phile-web編集部)
プロの厳しい要求に応えて、フラッグシップDVD-Rが誕生した
はじめに“GREEN TUNE”シリーズのDVD-Rディスクが開発された背景から教えて下さい。
佐藤氏 元を辿れば今から5・6年ほど前だったと思います。ある企業から、今までマスタリングの現場で使われていた「Uマチック」というテープメディアが生産完了を迎えるにあたって、マスタリング用のCD-Rが欲しいというご要望をいただいて“GREEN TUNE”シリーズのCD-Rが誕生しました。その後、今から約2年ほど前から音楽のマスタリング現場で「DDP(Disc Description Protocol)」という大容量のデータフォーマットが扱われ始めました。DDPのデータは例えばアメリカのスタジオでレコーディングした内容を、インターネットを介して日本のスタジオに送ることができるなど、マスタリング作業を効率化できるいくつかのメリットを持っているため、業界では主流になりつつあるようです。この大容量データを扱えるマスタリング用の記録メディアとして、新たに開発されたのが“GREEN TUNE”シリーズのDVD-Rでした。
これまでにも様々な記録メディアを商品化してきた三菱化学メディアですが、“GREEN TUNE”シリーズ以前にはプロフェッショナル向けとして、音楽用の記録メディアを開発されたことはあったのでしょうか。また、スタジオのマスタリングエンジニアとは“GREEN TUNE”シリーズの開発以前から交流があったのでしょうか。
江橋氏 音楽専用のメディアという意味では“GREEN TUNE”が初めての商品です。スタジオのエンジニアの方々とは、元々は全く別種の業務で当社のスタッフが交流を持つ機会がありましたが、そのコミュニケーションの中で、「音の良いディスクがつくれないだろうか」というご要望をいただきました。その声を受けて、最初はディスクの基盤そのものや成形技術を改良するという試みを行ってきましたが、ディスクの「音質向上」をテーマに、スタジオの方々と一緒になって商品開発に取り組んだのは“GREEN TUNE”が最初です。
三菱化学メディア(株)セールスサポート本部
三菱化学メディア(株)品質保証部マネージャー佐藤晋氏「GREEN TUNE」シリーズを含む、同社DVD-R製品の評価業務を担当
三菱化学メディア(株)新規事業開発室
三菱化学メディア(株)新規事業開発室「GREEN TUNE」シリーズを含む、同社DVD-R製品の製造・開発現場におけるマネージメント業務を担当
“GREEN TUNE”DVD-Rの音質はどんな方法で決めていったのですか。
江橋氏 “GREEN TUNE”の音質評価については、日頃から交流のあるスタジオに試作のディスクを持ち込んで、エンジニアの方にマスターの音源を使った比較試聴を行っていただき、繰り返し評価を仰ぎながら音を決めていくという方法でした。評価に使うマスター音源にはアーティストの発表前の作品もありますし、当然、当社のスタッフがそれをコピーして持ち出すことはできません。忙しいエンジニアの方々にスケジュールを調整していただき、スタジオで評価していただいたサンプルから得た評価値を、今度は筑波にある当社の光ディスク技術の開発研究所に持ち帰って、次の開発段階に反映させるという実に根気のいる作業でした。
通常製品とプロフェッショナル向けのマスタリング用製品とで、DVD-Rディスクに求められることにはどのような違いがありますか。
佐藤氏 出来上がった商品を見ていくと、仕様の部分で異なる点がいくつかあります。まずは“GREEN TUNE”DVD-Rには、当社独自開発の「金反射膜」が使われています。
江橋氏 金反射膜については、当初は通常商品のラインの中から、同じ銀反射膜を使った選別品をサンプルとしてスタジオにお持ちしたのですが、エンジニアの方々から「Uマチックに比べて少し音がこもるようだ」という指摘をいただきました。その後、試作を重ねているうちに「反射膜を金に変えてみたら音が良くなった」という評価をいただき、採用することになりました。
技術の枠を結集したトライ&エラーwp重ねて完成した究極の音質
開発段階での音質のイメージについては、エンジニアの方々から「こういう音が欲しい」という要求やイメージが先にあったのでしょうか。あるいは三菱化学メディアの方から想定したサンプルを提供して行ったのですか。
江橋氏 最初は当社の通常品の生産ラインから、エラーレートの低い良質な特性を持つディスクをピックアップして、サンプルとしてスタジオにお持ちしていたのですが、でも実際にエンジニアの方からは「エラーは高くても音が良いものが欲しい」という要望をいただき、私たちの考え方も徐々に変化していきました。
佐藤氏 金反射膜も幾つかお持ちしたサンプルの中の1つでした。最初は音質が良くなるという理由からではなく、金を使っているので耐久性が高く、長期保存性能に優れている点を提案するための試作品だったのですが、いざ聴いてみると「金だと音が良かった」ということになり、採用が決定しました。
佐藤氏、江橋氏
江橋氏 私たち三菱化学メディアのスタッフは、普段は“技術の向上”をテーマに研究をしてきたスタッフばかりですので、正直に言って“ディスクの音質”を評価するための視点や指標というものを持っていませんでした。最初私たちはエンジニアの方に「音のヌケが悪い」と指摘を受けた時に、それが何の意味かわからなかった程でしたが、幸い、当社のスタッフの中にバンドをやっている者がおりましたので、その者が音質研究の場に参加して互いの言葉をうまく翻訳してもらいながら作業を進めました。「この楽器の、この音を聴いてごらんよ」といった具合に、音楽を「音」として聴くポイントについても、エンジニアの方々からアドバイスをいただきながら、徐々にその違いに耳を気づかせることができるようになりました。このようにマスタリングエンジニアの方々と一緒に、一歩一歩前進しながら音をつくってきました。
佐藤氏 実際のスタジオではHDDに録音したマスターの音源を聴きながら、片方でDVD-Rの音を再生して聴き比べるという方法で音質評価を行ってきました。当初私たちメディアの開発者の間では「もともとデジタルなんだから、どうしてそんなに音が違うんだろう」という考え方があったのですが、「脚色しない、原音により近い音」を求めるエンジニアの方たちと一緒に研究を重ねていくうちに、ディスクの「音」に対するこだわりを養って行くことができました。
「音の違い」が聴き取れるようになっても、今度はその検証結果をディスクの性質に反映させて、狙った音を実現していく作業にも大変な苦労があったのではないでしょうか。
佐藤氏 基本的にはトライ・アンド・エラーの連続でした。そういう意味では、今回発売される“GREEN TUNE”DVD-Rも最終盤ではないと考えていますので、今後も研究を続けて将来的にはより「良い音」のディスクをつくりたいと考えています。
江橋氏 当社としては、とにかくエラーの発生しにくい製品を使っていくべきと考えています。あとはスタンパについても、なるべく高品位なものを使って記録するハード側に負担をかけないディスクをつくることが、メーカー側で努力しなければならない重要なポイントだと考えています。それ以外の「良い音」を実現するファクターについては、これから色々と研究を重ね、取り入れられるものは積極的に取り入れていこうと考えています。
ハードに負担をかけないという部分ですが、具体的にはどういった要素になるのでしょうか。
佐藤氏 例えばCD-Rのときには振動を抑えることで、記録時にピックアップの負担を減らすことができましたが、このようにアナログ系の部分でなるべく負担を掛けないような工夫がディスクの側に必要だと思います。振動の発生を抑えるためには、“可能な限り平滑性の高い”ディスクであることが大事なポイントになります。
音質以外の要素もエンジニアの厳しい要求にカスタム対応した
他には“GREEN TUNE”DVD-Rに三菱化学メディアのどのような技術やオリジナリティが活かされているのでしょうか。
GREEN TUNE DVD-Rのディスク。純金製の反射膜、独自技術によるハードコート、1-4倍速記録対応のアゾ色素を採用している
▲GREEN TUNE DVD-Rのディスク。純金製の反射膜、独自技術によるハードコート、1-4倍速記録対応のアゾ色素を採用している (写真は拡大可
佐藤氏 当社の場合は通常品のバリエーションというアプローチではなく、マスタリング用の製品として専用のスペックを採用しているところが大きな特徴だと考えています。例えば、マスタリング業界で主に使われているDVDドライブの記録速度は等倍から4倍速までのものがスタンダードですので、エンジニアの方々からも「等倍速記録に対応して欲しい」という強いご要望をいただきました。エンジニアの世界では高速で記録したいという要望よりも、むしろ音を重視して、低速でも音質が良ければそちらを選ぶという考え方が一般的でしたので、当社では敢えて4倍速対応にこだわりました。さらに金反射膜や独自開発のハードコート技術の採用、ハイクオリティな記録品位を実現するAZO色素を使っている点などが挙げられます。スタンパについては、民生用よりもフレッシュなものを使っています。
高速ダビングに対応していくと、通常は音質が悪くなっていくものなのですか。
江橋氏 一般のお客様の利便性からすれば高速記録に対応していた方が良いわけですが、マスタリングの現場で使われる際にはそういったベクトルとは違う方向の考え方があることを、私たちも“GREEN TUNE”シリーズの開発を進めていくことで気付かされました。
“GREEN TUNE”DVD-Rのスタンパは、民生用のものよりフレッシュなものが使われているということでしたが、こちらは少量生産のフラッグシップモデルである本製品のために、敢えて専用に新しいスタンパを起こしているということですか。
江橋氏 三菱化学メディアはおそらく世界でもっとも多くのDVD-Rを製造販売しているメーカーですので、例えば「100」を製造するうちの「0.1」ぐらいの割合に相当する投資であれば、残りの“ゆとり”の部分で“GREEN TUNE”シリーズのようにフラッグシップの商品をつくることができます。ただ、それは当然のことながら予めビジネスとして売れる見込みを計算して行っているわけですし、開発者としては「良い音のディスクをつくるんだ」という意気込みを持って取り組んでいます。
佐藤氏 スタンパに関しては、一部ブルーレイディスク用の技術をフィードバックできた部分があります。ハードコートの技術については、ブルーレイとDVDでは波長が異なりますので、必ずしも同じ材料を同じ手法で用いることはできませんでしたが、高度な技術を同時並行で開発を進めてきました。この点では当社の場合はあらゆる種類のメディアを手がけておりますので、各々の技術が互いに活かされているということが言えると思います。
一品もののフラッグシップを既存の生産設備・体制でつくることができた
開発段階の一方で、“GREEN TUNE”DVD-Rの生産工程で何か新たに工夫をされた点はありますか。
江橋氏 生産条件に関しては、通常品のDVDから何か特別な変更を行ったという点はありません。
佐藤氏 実験の段階では、生産条件についても色々なパターンを試したのですが、最終的に製品化が決定したものについては、通常品の製造プロセスを大きく変更することなく、ほぼ同等の条件に落ち着きました。
江橋氏 これは私たちの通常品のDVD-Rの生産で確立したプロセスをそのまま使って、高品質のディスクをつくることができたことを意味しています。当社の既存の生産ラインが、“GREEN TUNE”のようにクオリティの高い製品をつくるのにも十分なレベルにあるということを証明できたのです。少量生産のフラッグシップモデルをつくるためには、ある意味ではすごく非効率なことを製造現場に要求することになります。一般的に通常ラインと異なるフラッグシップモデルを生産する場合は、いったん通常製品のラインを止めて、この商品のために色素を変えて、スタンパも変えてと、特定の少量製品のために手間と時間を費やしてもらわなければなりません。当社は通常品を大量に製造している中の剰余分、あるいは余力でこれに対応できる強みが、そのベースにあるのだと思います。
ハイアマチュアをはじめ、一般ユーザーの方々には“GREEN TUNE”シリーズのどこを魅力としてアピールしたいとお考えですか。
江橋氏 金反射膜やハードコートの採用などにより、データ保存用のディスクとして優れた保存性を持っているディスクであることは強調すべきポイントだと考えています。
「温度90度・湿度80%」の過酷な環境下で行った加速耐久性試験GREEN TUNE DVD-Rは従来品と比較して約2倍の耐久性能を実現している
▲「温度90度・湿度80%」の過酷な環境下で行った加速耐久性試験GREEN TUNE DVD-Rは従来品と比較して約2倍の耐久性能を実現している (写真は拡大可
エラーレートの試験結果を示すグラフ。こちらの場合もGREEN TUNE DVD-Rが従来品との比較において優れた性能を実現していることがわかる
▲エラーレートの試験結果を示すグラフ。こちらの場合もGREEN TUNE DVD-Rが従来品との比較において優れた性能を実現していることがわかる(写真は拡大可
佐藤氏 “GREEN TUNE”DVD-Rの耐久性能を実験するテストでは、常温で記録したディスクを「90度・80%」という、ディスクにとって過酷な高温度・高湿度の環境にさらしておき、これを大体3時間が経過したのち取り出して、エラーを測定するという試験を繰り返し、エラーの上昇を確認するという手法を取りました。その結果としては、“GREEN TUNE”が弊社の従来品と比べて「約2倍」ほどの寿命を持っていることが実験データから明らかになっています。
三菱化学メディアが既存の生産設備を使って“GREEN TUNE”DVD-Rをつくりあげたということは、この次にはそのノウハウと技術を投入した民生用のハイグレード版ディスクが出てくるのではないかと、ファンは期待しても良いのでしょうか。
佐藤氏 現在横浜にある研究施設に“GREEN TUNE”の開発を含めたクオリティチェックを行うための設備導入を進めています。“GREEN TUNE”の開発から誕生した技術の中で、民生用ディスクに反映できるものがあれば順次積極的に投入していきたいと考えています。デジタル記録の世界では、今までどうしてもスペックやエラーレート、ジッターなどの値でその製品の実力を評価する傾向がありましたが、三菱化学メディアでは“GREEN TUNE”の開発を通じて感応評価との関連性のような評価軸を新たに蓄積されてきたことが、今後の非常に大切な資産になるものと思います。
この先に“GREEN TUNE BDシリーズ”が登場する可能性もあるのでしょうか。
江橋氏 マスタリング業界ではBDがまだ採用されていませんので、そういう意味においては“GREEN TUNE”ですぐにブルーレイを出すことはないと思います。ただ、“GREEN TUNE”で培った技術を応用した、別のタイプの製品は、この先積極的に開発を進めて行きたいと考えています。
佐藤氏 今後はスタジオエンジニアの方々だけでなく、一般ユーザーの方々にもハイクオリティで“差がつく商品”の登場をお届けしていきたいと考えています。クオリティ志向のユーザーの皆様の中には、ディスクの値段が下がることで、そのために色々なクオリティの部分が犠牲にされて行くことを残念に感じて下さる方々が多くいらっしゃるものと思います。私たちは“GREEN TUNE”シリーズを通じて、ハイクオリティなデジタルディスクを市場に提案したいと考えています。今後もクオリティユーザーのための商品づくりに積極的にチャレンジしていきたいと思います。
製品紹介
DVD-R DATA(4.7GB)for Mastering
DVD-R DATA(4.7GB)for Mastering
“GREEN TUNE”「DHR47GT1」
¥OPEN
【GREEN TUNEの由来】
CD-Rの開発時に高音質を追求し、様々なテストを繰り返した結果、CD-Rドライブのピックアップレーザーの色である「赤色」の補色となる「緑色」のレーベルが最適であるということが明らかになった。そのこだわりをCD-Rの製品名に冠され“GREEN TUNE”というブランド名が誕生した。DVD-Rでは研究と検証の結果、ディスク基盤の構造上、最も最適であるという理由でレーベルの色は白になったが、「最高の音質にこだわるブランド」として“GREEN TUNE”の名前はそのコンセプトとともに受け継がれることとなった。
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